誰も知らない 80点

 シネカノンというミニシアター系列の作品ですが、9月に入り、MOVIXのような大手シネコンでも上映されるようになってきました。
 独立系の映画を見るのは初めてで、今時、デジタルではない音質の悪さには、正直びっくりしましたが、すぐに慣れました。
 ストーリーは、1985年に実際に発生した事件をもとにしたフィクション。
 予告編などからはほんわかした雰囲気の映像と音楽が流れていて、なかなか心地よさそうな作品ですが、見てみると印象はだいぶ違います。
 そもそも、映像はほんわかしていても、ストーリー自体はまったくほんわかしていません。新居に越してくる主人公一家は、長男のほか3人はスーツケースに入れられて運び込まれ、母親は外で遊び放題。全ての描写が残酷に見えます。
 それでもしばらくは普通の生活が続きますが、母親はついに、家に帰ってこなくなります。
 それからは兄弟だけの生活が始まるのですが、所詮は子供だけの生活で、部屋はいつの間にか乱れていき、電気も水道も止まります。そのような描写が何気なく描かれているので、余計に残酷に感じます。
 話題になった柳楽優弥はもちろん、母親役のYOUやほかの子役もかなりの好演。柳楽ひとりの演技がカンヌ国際映画祭で評価されたのは、あの独特のまなざしのおかげのような気がしました。
 一部の人からは『泣ける』などという評価を聞きますが、とても感動するような映画ではなく、ひたすら、弱い子供たちとその周りの大人たちの関係が、ほんわか映像で残酷に描かれているだけです。
 私はまだ一応子供なので、映画を通して是枝裕和監督のメッセージを受け取ることはできませんが、大人になり、権力を持つようになった者と、その下で必死に生きようとする子供たちとの対比を描いた作品のように思えました。
 リアリティーがある作品ではありませんが、なかなか考えさせられるものがあります。