キャシャーン

 見てきました。
 歌手 宇多田ヒカルの夫である紀里谷和明氏の第1回監督作品である本作は、予告編で今までの映画に無いプロモーションビデオの手法を利用した映像美でかなり期待させられました。
 物語は序盤から適度なスピード感で進んでいきます。
 演出も独特の色使いのおかげか、近頃の日本映画にありがちだった安っぽさがありません。ほぼ全編で使用されているCGはかなり安っぽいですが、制作費6億円という低予算映画であることを考えれば、それほど気になるレベルではありません。むしろそこを利用しているアニメを意識した作り方には共感がもてます。
 この演出もあり、俳優ひとりひとりの演技も際立っています。東京芸術大学卒(!)の主演 伊勢谷友介やその幼馴染を演じる麻生久美子など若手の演技はもちろん、寺尾聰唐沢寿明の演技も味があってよいです。特に唐沢氏の演技は難しい役どころながら心を打つものがあります。お笑い出身であまり期待していなかった宮迫博之も、他の俳優に全く引けを取らない素晴らしい演技を見せていました。
 音楽に関しては、監督が妻のプロモーションビデオによって鍛え上げられているのもあって、映像にマッチしていました。エンディングテーマも物語の概要を集約しているように感じられてよかったです。
 ただ演出面の難点をあげるとすれば、アクションシーンでしょう。アニメを意識しすぎたのか、1カットがあまりにも短く、目が回ります。普通のシーンでの演出は素晴らしいのに、アクションシーンの演出には向いていないようです。この監督は北村龍平さんと組んだらものすごいアクション映画ができそうな気がします。
 また一番の酷評の原因となっているのがやはり脚本でしょう。私は特に問題ないかと思いましたが、一般大衆が期待するヒーローモノとはあまりにもかけ離れすぎています。はっきりいって、キャシャーンは何もしません。弱い心を持つ己と葛藤するただの哲学バカにしかみえません。それでも世界観はしっかり構築されていますし、ラストシーンはうまく演出されており、個人的にはそれなりに納得のいく終わり方をしてくれました。
 全体的に、邦画に新しい流れを作ってくれたことを感じさせる作品となりました。また、単純なヒーローモノではなく、よくいえば新しい部類の映画とも言えます。まだまだ粗はたくさんある作品ですが、紀里谷監督は今後に大きく期待できそうです。